先にまとめ
- 音楽理論は、人類の叡智であり強力なツール
- 楽譜は読めたほうがいい
- 教本を読むだけでは上達しない
- 勉強30%、実践70%が最速で上達できる
- ジブリやディズニーの曲がオススメ
こんにちは、Keigo (@type00k) です。
音楽理論を学ぶことなく音楽を満喫することは可能だ。だけど、楽器演奏や作曲を深く追求するなら、やっぱり音楽理論の知識が必要になることがある。
そもそも音楽理論は、「この曲はなんて素晴らしいんだ!」という人間の感情が生まれる背後にあるロジックを解明するものだ。過去の人々が時代を超えて愛し続けてきた「音楽の本質」とも言える。であれば、音楽理論を活用しない手はない。
ところで、僕は5歳からピアノ教室に通い始めたけれど、音楽理論について習ったのは基本的な楽譜の読み方くらいだ。ピアノ教室は小学校で辞めてしまったから、コードや和声法などの音楽理論は中学生以降にYouTubeや本を参考に独学してきた。その過程で様々な遠回りをした経験から今なら近道も示せるはず。
ということで今回は、音楽経験ゼロから独学で音楽理論を勉強する方法を僕の独断と偏見で紹介したい。音楽理論を楽しく効率的に学ぶ最初のステップとして、参考になったら嬉しい。
YouTube@Keigo
音楽理論は、人類の英知




あえて音楽理論を一言でいえば、音楽の仕組み・パターン・ルール・手法などをまとめたものと言える。
メチャクチャ雑に言えば、
メロディやリズムをこう配置すると、
人類は気持ち良く聴こえるんじゃね?
みたいな、人類の経験則(時代を超えて多用された、人々に愛されたという意味)による知恵の結晶、英知と言っても過言ではない。
ある時代の、あるコミュニティの人々が「ド・ミ・ソって鳴らすと、なんか良い感じに聴こえるわ」と思ったのだろう。そんな人類の感覚の積み上げが今でも引き継がれている。クラシックもあればジャズもロックもヒップホップもある。当然、歴史に埋もれたものも多くあるはず。
音楽理論は、料理のレシピ




と同時に、音楽理論は「科学」のような絶対的な法則でもないから「その時代に生きる人類が気持ち良く聴こえれば、OKです」みたいな、わりと雑なものでもある。「音楽理論的にはありえないんだけど〜!」みたいな曲は星の数ほどある。理論は手段であって、目的ではないから、別に理論に縛られる必要もない。
「音についての情報をまとめたもの」という点では、音楽理論は料理のレシピに似ている。
例えば、カレーは複数のスパイスが組み合わさって作られる。スパイスについて知らない人でも自分で全部調べるよりは、誰かが作ったレシピを使った方が早くて美味しい。自分だけのオリジナルカレーはその後に調べても遅くはない。
音楽理論の使い方もまさに同じような感覚だ。まずは過去の名作簡単レシピを覚えたほうがいい。圧倒的スピードで上達できるからだ。
余談:「音楽理論」という言葉の定義
余談だけれど、「音楽理論」という用語の認識を確認しておきたい。
現在では一般的に「音楽理論 = ヨーロッパやアメリカで広まった音楽の理論」を指すことが多い。この記事を読んでいる人も「西洋音楽」を知りたい人が大半になると思う。楽譜やコードは西洋音楽理論だからだ。
厳密には、日本も含めて世界には様々な民族音楽があるからそれらも音楽理論の一分野になる。たとえば「雅楽」は日本の宮廷音楽だから「民族音楽」という音楽理論の一つのジャンルになる。
参考サイト:雅楽のオーケストレーション
ということで「世界には様々な音楽があり、それぞれ独自の音楽理論が存在する」という表現のほうが正確だ。ただ、それだと複雑で分かりにくい。
だから、音楽理論は「西洋音楽」と「それ以外の民族音楽」の2つに分類できるという認識で実用上は問題ない。もちろん、音楽は歴史的、文化的、地理的、宗教的、政治的な問題が複雑に影響し合っているし、西洋音楽自体が民族音楽の一つという見解もあるので、単純に二分割できるわけではないのだけれど。
ということで、一言で音楽理論と言っても実態は極めて膨大で、すべてを習得することは(そんな人がいるかは不明だけれど)不可能に近い。カレーのレシピも星の数ほどある。すべてを覚えていては先に寿命が来てしまう。
閑話休題。




世界中の音楽と伝統芸能の音声記録を検索することができる「Global Jukebox」が面白い。慶應義塾大学が発表したものだ。
1,026民族の伝統的な楽曲を含むデータセットがあり、それぞれの曲を歌手の数、声色、リズムやメロディーなどの特徴によってカテゴリー化している。現在(2022年11月)は、5,776 曲が約37種類の特徴に分けられている。
無料で聞けるので、気になる人はチェックしてみるといいかもしれない。
公式サイト:The Global Jukebox
義務教育で、コード進行まで習う
音楽理論の有名な分野は以下のとおり。ざっくりなのでMECE警察お断り。
- 音律 → 楽器のチューニングの設定・成り立ち
- 楽典 → 楽譜の読み書き
- 音階 → 音を順次に並べたもの。スケール
- 和音 → 2つ以上の音を同時に鳴らした音。コード
- 和声法 → 各声部が和音を形成しながら進行する法則
- 対位法 → 2つ以上の旋律の調和を保ちながら同時進行させる技法
- 管弦楽法 → 最も合理的かつ効果的にオーケストラで表現する方法
- 民族音楽理論 → 日本を含める世界の諸民族の音楽について
西洋音楽で言えば、歴史的には人間の声や楽器などにより、ある音の基準が作られて、メロディを記録として残すために楽譜(楽典)のルールができ、何度も修正を加えた結果、和声法や対位法などの難しい概念(一般的には楽器の数が多いオーケストラが最も複雑)にまで発展していったのだと思う。
この記事の読者の多くは「コードとか知りたいんだけど」と思ったのかもしれない。けれど、コード理論は音楽理論の一分野でしかないのだ。
とはいえ全部を覚える必要はなくて(というか無理)、基本的な楽譜の読み方とコード理論を知っていれ演奏や作曲・編曲にも十分活かせるので、初心者はまずそこを優先的に勉強するといい。
実は日本人は中学校で音楽理論を習っている説。
音楽理論は、言語
ついでに、音楽理論を勉強するメリットも紹介しておこう。
- 音楽仲間とスムーズに会話ができる
- 美しい響きの仕組みを理解できる
- 楽曲分析ができる
- 作曲・編曲の役に立つ
- 説得力のある音の響きを作れる(素人っぽさが出ない)
音楽理論は、日本語や英語と同じように言語の一つと考えると分かりやすいと思う。
単語や熟語を知らないと文章や言葉の意味が理解できないのと同じように、音楽にも独特の用語や記号が使われるので、その意味が理解できないと素人には暗号にしか見えない。
逆に、音楽用語や記号の意味を瞬時に理解できるレベルになると、音楽的な表現の幅が加速度的に広がっていく。仲間ともコミュニケーションが取りやすくなる。
つまり感覚で音楽をやるより(否定はしないけれど)、音楽理論を知っていたほうがコスパが良いのだ。
オススメの勉強分野
上記にもあるとおり「音楽理論」といっても膨大。だからここでは最低限の勉強で、すぐに役に立つ分野を紹介したい。
具体的には以下の5つ。音楽を続ける限り死ぬまで使えるのでオススメ。
- 楽典(楽譜の読み書き)
- 調と音階(キーとスケール)
- 和音(コード)
- 終止と機能
- コード進行
ざっくり説明すると、
キー(調)は、どの音を基準にするか、ということ。「ハ長調」とか「C minor」とか。カラオケで「キーを上げる・下げる」と言ったりもする。これを勉強すると黒鍵(#や♭)の意味が分かる。
スケール(音階)は、基準となる音から順番に音を並べたもの。「ドレミファソラシド」とか。とりあえず最初は「メジャースケール」と「マイナースケール」を覚えることになる。
コード(和音)は、複数の音を同時に鳴らすこと。「Cmaj7」とか「F#m7b5」という表し方をする。便利だからポピュラー音楽ではほぼ100%使われる。
ケーデンス(終止)とファンクション(機能)は、曲に起承転結つけるためのコードの並べ方について学べる。学校の「起立」「礼」「着席」のあの音の順番には意味があることが分かる。
という感じで、音楽理論は音の組み合わせをパズルのように捉えていく。
最終的には暗記ゲーなので、結局のところ経験が物を言う世界ではある。
オススメの参考書5つ
【入門者向け】楽譜アレルギーの人はこれ




難易度 | ★☆☆☆☆ |
オススメ度 | ★★★★☆ |
Keigoの一言 | 最初の一歩は漫画でOK |
楽譜アレルギーの人にオススメ。
もし音楽知識がゼロならマジな話、一番オススメの本はドラえもんの学習シリーズだったりする。漫画の分かりやすさをナメてはいけない。
最初はとにかくハードルを下げるのが大事。
ちなみにピアノ版もある。








【入門者向け】音楽知識ゼロの人はこれ




難易度 | ★☆☆☆☆ |
オススメ度 | ★★★★★ |
Keigoの一言 | 一家に一冊置いておく辞書 |
マジでゼロからスタートする人向け。楽譜の読み方を解説してるフルカラーの本。難しい言葉がないから取っつきやすさがある。
楽譜の読み方を勉強してるとしょっちゅう記号の意味とか読み方を忘れたりするから知識が定着するまでずっと使えると思う。
ほぼ辞書的な役割。とりあえず持っておくといい。
できる ゼロからはじめる楽譜&リズムの読み方 超入門の<目次>
- 第1章 音の【長さ】を読んでみよう
- 第2章 もっと拍子を読んでみよう
- 第3章 リズムを読んでみよう
- 第4章 音の【高さ】を読んでみよう
- 第5章 楽譜の記号を読んでみよう
- 第6章 楽器別の楽譜を読んでみよう
【初心者向け】音楽理論をざっくり学びたい人はこれ
難易度 | ★★☆☆☆ |
オススメ度 | ★★★★☆ |
Keigoの一言 | 中学生くらいでも読める本 |
音楽理論をざっくり学びたい人向け。一応、楽譜の読み方を完全に忘れた人でも対応できる本。
「音楽理論ってこういう感じなんだ~」って思えるくらいにポップで見やすく内容も良い感じにまとまっている。
1日30分で1章読めば1週間くらいで全部読めると思う。ただし一度読んで内容を正確に理解できるかは音楽の経験による。
ちなみに僕が音楽理論を勉強し始めた頃、この手のありとあらゆる音楽理論書を死ぬほど読み直していた。たいていは土日で読めてしまうけれど、実際の音と合わせて内容を理解するのに時間が掛かった。
というか本を一度読んだだけで完全に理解しようとするのは至難の業だと思う。本は音が出ないのが弱点だからだ。
よくわかる楽典の教科書の<目次>
- 第1章 楽譜の基本
- 第2章 音譜
- 第3章 リズムと拍
- 第4章 音程
- 第5章 音階と調
- 第6章 和音<基本編>
- 第7章 和音<応用編>
- 第8章 演奏に関する指定
- 第9章 曲想・奏法に関する指定
【中~上級者向け】音楽理論の沼に片足突っ込みたい人はこれ
上記の本のレベルが分かった上で、より理解を深めたいなら読んでみてもいいかもしれない本。
ただし、初心者の人にはオススメしない。




難易度 | ★★★☆☆ |
オススメ度 | ★★☆☆☆ |
Keigoの一言 | 網羅性が良い。ただし文が堅いから独学には向かない |
主に楽典の本。音大の入試対策とかで使われるくらいの定番本。楽典の聖書。ガチで知りたい人向け。
楽典の本としては、過去に読んだ人が一番多い本だと思われるのが最大のメリット。
網羅性が極めて高く、練習問題が付いてる珍しい本だから、知識を身に着けたい人には唯一無二な本だと思う。
ただし全く面白さがない硬派な本だし、殴ったら人が絶命するレベルで表紙も堅い。文体も昭和の古臭い感じで、開く前から本棚の飾りになる臭いもプンプンしやがる。さすが聖書といったところか。
一応、僕は楽譜制作の「これ、どうやって表記するんだっけ?」みたいなときに辞書的な役割として何十回も読み直してる。
正直、オススメはできない。足に落ちると死ぬほど痛い。
ただ一応、定番書だし楽典に関してはほぼ全部載ってるのが嬉しい。
独学本としては些か微妙だけれど、「辞書としては使える」ということで紹介しておく。
楽典―理論と実習 の<目次>
- 序章 音,純正律と十二平均律
- 第1章 譜表と音名
- 第2章 音符と休符
- 第3章 リズムと拍子
- 第4章 音程
- 第5章 音階
- 第6章 和音
- 第7章 速さ・強さに関する表示法
- 第8章 曲想・奏法に関する表示法
【中~上級者向け】より実践向きな本
難易度 | ★★★★☆ |
オススメ度 | ★★★★☆ |
Keigoの一言 | 最初にこれ買えばよかった |
上記の「楽典―理論と実習」と内容は少し被る部分もあるけれど、ポピュラー音楽に使うコード進行やコードスケールについても詳しい解説があってより実践的。
ポピュラー音楽やるなら理論はこの本一冊で十分すぎると思う。
文体も柔らくて読みやすいから初心者が勉強を始めるなら「楽典―理論と実習」よりも、こちらのほうがオススメ。
オススメのサイト
無料で勉強したい人のサイト。やる気さえあれば本を買わなくても知識自体は手に入る。
音楽史から作曲入門講座まで




楽譜の基本的な楽譜の読み書き、コードの仕組みが一通り学べる。練習問題もある。
ただし、楽譜を自分で演奏して確かめる必要がある。
公式サイト: 音楽について勉強しよう – ヤマハ
ゲーム感覚で学ぶエクササイズ




ミニゲーム感覚で学べるサイト。アウトプット中心(用語の説明がない)だから、ある程度分かってからがオススメ。
小テストみたいな感じで本当に理解しているのかを確認できる。
公式サイト: 音楽理論を無料で学びましょう – Musicca
ピアノを用意しよう
音楽理論は「音の世界」の話なので、実際に音を聴いて確かめていく必要がある。
特に楽譜と相性の良い楽器であるピアノを使って学習するのが普通。
そもそもピアノは、赤ちゃんでも弾けるくらい簡単に音が出せるし視覚的にも分かりやすい最強の楽器である。
もし自分のメイン楽器がドラムやギター、ボーカルだとしてもピアノは用意したほうがいい。
最安狙いならこれ
激安で用意するならこのキーボードがコスパが良い。乾電池で動くタイプ。別売りでACケーブルもある。
実はプロのレコーディングスタジオにも置いてあったりする。
ピアノも上達したいなら、YAMAHA P-125aがコスパ最強
新品5万で買えるコスパ最強の電子ピアノ。楽器屋さんのランキングでもだいたい1位。耐久性も高いので信頼度抜群。
この価格でこの完成度の高さは群を抜いて銀河まで行ってしまう。
Amazonレビューはこちら








ピアノをゼロから始めたい人にオススメの本
ある程度ピアノが弾けないと音楽理論の勉強も途中で詰まってしまうから、この際ピアノの弾き方も学んでしまおう。
【入門向け】すべては教科書を理解するところから
ゼロから独学でピアノをやりたい人にオススメの本。
演奏フォームや弾く時の手のフォーム、指番号など基本的なところから勉強できる。ピアノの基本中の基本を知りたい人、気軽に始める人に最適。
ピアノの教科書の<目次>
- Introduction ピアノの基礎知識
- Chapter 1 音を出してみよう
- Chapter 2 簡単なメロディを弾こう
- Chapter 3 左手もつけてみよう!
- Chapter 4 コードを押さえてみよう!
- Chapter 5 コードを押さえて両手奏!
- Chapter 6 これでバッチリ!両手奏




オススメの勉強方法と注意点
音楽理論はただの「理論(≒情報)」だ。
用語や使い方を説明しているだけであって、実際の曲で上手く使えるようになるかは別の問題だ。
実践と並行して勉強を進めると効率が良い
オススメの勉強法は、実践(曲を弾くこと)と理論を同時並行すること。自分が好きな曲とか演奏したい曲などを用意して、メロディを書き出したりコードを考えたりするとめちゃくちゃ勉強になる。
勉強した内容は友達やSNSで発信するとさらに知識が深まるのでオススメ。僕はそうして友達を失ったけれど。
理論だけ勉強しても、それはカレーのレシピを知っただけの状態だ。実際にカレーを作ることでレシピに書かれていないを体験することになる。そこにこそ真の学びがある。
必要な勉強時間はどのくらい?
楽器経験の有無にもよるので一概には言えないけれど、下記を毎日30分勉強するとして、2~3ヶ月もあれば十分理解できる範囲だと思う。
- 楽典(楽譜の読み書き)
- キーとスケール
- コード
- ケーデンスとファンクション
本格的に学びだすと何年も掛かるけど、さきほど紹介した初心者向けの参考書なら比較的早く学習は終わると思う。
ジブリがオススメ
やりたい曲が特に見つからないという人は、ジブリの曲がオススメ。ジブリの曲は日本人なら知っている人は多いし、ピアノの本も初心者向けから上級者向けまでたくさん販売されている。そういう意味ではディズニーでも良いけれど。
簡単な本から初めて徐々にレベルを上げていくと、ピアノも上手くなるし音楽理論にも詳しくなれるしで一石二鳥。
ちなみに、僕もジブリの上級向けピアノソロの楽譜を販売してるから気になる人は見てみてほしい。
楽譜の小節の上にコードが書いてあるかどうかはけっこう重要だったりする。
以下オススメのジブリの楽譜。レベル順なので順番に挑戦するといいかも。
【入門向け】片手で弾ける!シリーズ




「右手でしか弾けないぜ!」という人向け。両手奏(両手で弾くこと)がまだ難しい人、久しぶりにピアノを弾く人にオススメ。
ドレミふりがな・指番号・歌詞・弾き始めの音と位置がわかる鍵盤図も付いてる。
【初心者向け】 とってもやさしい スタジオジブリ名曲集シリーズ




「両手で弾いてみたいぜ!」という人向け。片手で弾けたら次はこれが良い。
基本的に2声なので気軽に始められる。
【中~上級者向け】モテるかもしれない




「音楽の授業が始まる前にさらっと弾いてモテたいぜ!」という人向け。易しめの曲から難しい曲まで幅広い。
これが弾けたら「ピアノ弾ける人」認定されると思う。ただし弾けてもモテない。
【変化球】JAZZアレンジなジブリ




普通の演奏に飽きた人向け。おしゃれなジャズを弾いてみたい人向け。ジャズ入門的な感じで面白いかも。YouTubeで模範演奏が聞ける。
知っておくと良いこと①:必ず楽譜は読めようになろう
インスタのDMで楽譜についての質問があったので補足しておきたい。
僕は5歳のときにYAMAHAの音楽教室に通い始めたけれど、当時同じピアノ教室にいた人たちのほとんどが数年も経たず次々に辞めていったのを今でも覚えている。
主な原因は、楽譜アレルギーだ。
みんなで歌うことはメチャクチャ楽しいけれど、先生が楽譜の読み方のレクチャーを始めた途端に明らかに空気が重くなるのだ。「分かんない」「読みたくない」「メンドクサイ」と、みんな口では言わないけれど、子供は純粋だ。顔にはハッキリと書いてある。
先生としては「楽譜が読めないと、ピアノの鍵盤が押さえられなくて曲が進まないからね~」という理屈だけれど、全くのド正論だ。
後ろで見ている保護者の親たちは、最後に楽譜を眺めたのが学生時代とかだ思われるので、ほとんど分かっていない様子。我が子にレクチャーしたくても、できないのである。できるのは精一杯の笑顔で我が子にプレッシャーを与えることだけだ。
幸い、僕は楽譜を読むのにほとんど苦労しなかったようで(親に聞いた)、ピアノも周りの子よりも早く上達できたらしい。ちなみに両親は音楽は1mmも分からない。
今思えば、一生懸命な先生の元で楽譜が読める数人のちびっ子と無駄に笑顔な親、楽譜アレルギーたちによる不協和音が鳴り響くピアノ教室は、傍から見るとわりと地獄の空間だったと思う。まあ、レクチャーが終わるとすぐにみんなの笑顔が戻るので終わりよければすべてよし的なところはあった。
そういう経験もあって、楽譜を読むのが苦手な人の気持ちはよく分かる。正直、僕だって楽譜を読むのはメンドクサイ。
ただ、音楽理論を勉強するにはどうしても楽譜を読む能力が必要だ。だから現時点で楽譜が読めない人は楽譜の読み方を先に知る必要がある。もちろん世の中には楽譜が読めなくても音楽理論を感覚的に理解できる人もいるけど、それは一部の人だけ。気にする必要はない。
とりわけ楽器経験が浅い人が感覚だけで音楽理論を習得するのは不可能に近い。だからまずは素直に楽譜の読み方を覚えよう。その方が効率が良いし、一度身に付ければ一生使える武器になる。
正直、楽譜の読み方は難しくない。小学生にだって理解できる内容だし、そもそも義務教育で習うことになっている。というか、もしそんなに難しかったら人類は1000年も使っていない。
慣れないうちはどうしても読むのに時間が掛かるというだけだ。ここまで文章が読める人なら、1週間くらい練習すれば読めるようになるはず。それも一生。
知っておくと良いこと②:ハードルを、下げろ!
そもそも人類は、反復することで知識や動作を覚えていく生き物だ。スポーツも勉強も恋愛も音楽も、上達したい・できるようになりたいと思ったときは、反復練習を避けては通れない。プロ野球選手ですら毎日素振りをするし、受験生は毎日計算を解くし、プロミュージシャンは毎日楽器に触れるはずだ。
と考えれば、どんな分野であれ初心者がたった一度ですべてを覚えられると思うこと自体が、おこがましく思えてくる。
大切なことは、繰り返すことだ。
1回で分からなければ2回やればいい。2回で分からなければ3回やればいい。そうやって人は成長していく生き物。焦る必要もない。
だから音楽理論を勉強するコツも同じ。
軽く流し読みして、
それを3周、繰り返す。
1周目は「そういうのがあるんだ」程度でOK。2周目は用語や仕組みの理解を中心に。3周目は総復習でさらっと確認。3周やって分からなければ放置でいい。メモ(ここ数年流行ってるNotionが使いやすくてオススメ。)を取っておくといい。急に理解できる日が来る。たかだか二十数年生きた僕の感覚だけど、独学ならこれが最速レベルだと思う。
そもそも、音楽理論は日常生活とかけ離れてるから一度読んだだけじゃほぼ100%覚えられない。というか初見だと理解すらできない分野も多い。僕も最初は意味不明だった。
だから最初は細かい記号の名前も覚える必要もない。そのうちまた出てくるし、そこで自然に覚える。
とにかくハードルを下げるのが大切。自分が思ってる2段階くらい下げたほうがいい。反復を止めたら意味がない。
あと、人間は時間を掛けるほど忘れる生き物だから、やり始めたらできる限り短期間で学習を終えたほうがいい。上記で紹介した音楽理論の学習範囲なら、できれば2週間以内、どんなに時間がかかっても2~3か月以内の習得が望ましい。
学習した内容を「他人に(自分でもOK)説明できるレベル」になれば完璧。
知っておくと良いこと③:最強の学習法は、楽曲分析
理論の本を読んだだけでは意味がないよ、という話。
僕が高校生の頃、科学的にはインプットは30%、アウトプットは70%で学習すると効率が良い、と聞いたことがある。学校の勉強で言えば、授業を聞いたり本を読んで理解するのがインプットで、実際に演習問題を解くのがアウトプットだ。
気をつけたいのは、人類はインプットで満足しがちなことだ。十分なアウトプットがないまま、やった気になっていることが多い。受験に失敗する原因の9割くらいが圧倒的なアウトプット不足であることは有名だ。知らんけど。
ということで、音楽理論の場合は勉強した内容を実際の曲(自分が練習している曲や作っている曲)で分析することが大切だ。というか分析をしないと音楽理論を勉強する意味がない。道具は使ってこそ意味を成す。
下の例のように自分が知ってる知識の範囲で問題ない。
分析の例
- 「この曲のキーはA Majorだ」
- 「この小節のコード進行は II – V だ」
- 「3拍子目で転調する」
- 「このコードはサブドミナントマイナーだ」
- 「ピアノの左手が濁る(ローインターバルリミット)っぽい」
- 「ここは rit. だ」
特に正解があるわけでもないから、自分が気がついたことを楽譜にどんどん書けばいい。分からなかったら本をもう一度読んで見ればいい。
10曲くらい分析していくと、過去に見たことがあるコード進行や表現がたくさん出てくることに気がつくことになる。
ゼロから曲が生まれているというよりは、その時代の人々が心地良いと思うフォーマットの上で、まるで音のパズルを繋ぎ合わせているように見えてくる。
結局、良い曲というのは過去の良い曲の組み合わせでしかない。その作業が途方もなく大変なのだけれど。という、僕の心にぶっ刺さった有名な本があったのでオススメ。
余談(2023年4月):東京大学教授「人間の創造性は、意外と浅い」
ChatGPTは、昨年の発表後わずかでユーザーが1億人を突破した。それまでの検索世界王者「Google検索」の利用数は驚くペースで減少していて、王座奪還も時間の問題かもしれない。
先日面白いツイート、動画を見つけた。AI専門家で東京大学の松尾教授「人間の創造性は意外と浅い。所詮、過去の経験のパターン化と組み合わせに過ぎない」というものだ。
AIといえば、たとえば将棋が分かりやすい。2015年あたりから人類はAIに勝てなくなってしまった。人類が長年積み上げた定跡、最善手すらAIはそれらを上回る手を数秒で計算するからだ。
もちろん専用のAIを作るためのアルゴリズム(問題解決の手順)は人間が考え出さなければならない。しかしChatGPTの登場によりそのアルゴリズムすらAIが考えることができるようになってしまった。人間よりも早く、正確にだ。
もはやChatGPTの創造性は「アイデアの掛け算」を超越してしまっている。
クラークの三法則の一つに「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」がある。ChatGPTはまさにそれだ。旧時代における「鉄器」であり、産業革命における「機械」であり、現代における「パソコン・スマホ」だ。今後の人類が使うのが当たり前になるし、使わなければ格差が拡大する。時代の流れは止められない。
音楽も基本的には過去の積み上げで継承されてきた。派生した音楽はロックやヒップホップのように一つのジャンルとして確立した。でも「アニソン」のように決まったフォーマットを持たない、複数のジャンルのサウンドが融合した新しいサウンドがすでに存在する。
AIによる新たな音楽が大量に生まれてくるのも時間の問題でしかない。だからAIをどのように活用するかが大切になってくる。
僕はAI系の音楽アプリやソフトはこれからガンガン使っていく予定。iZotopeとか。




【番外編】中〜上級者にオススメ本
ここからは余談というか、少し難し目のジャズ系の理論書の紹介。ポピュラー音楽理論をさらに発展させたい人向け。個人的に良かった本だけど普通の人は読まなくてもいい。難易度高め。両足沼に突っ込みたい人向け。
「なんでジャズなの?」って疑問に思うかもだけど、その理由はポピュラー音楽がジャズ理論をかじってるから。
- 西洋でいわゆる「クラシック音楽」が誕生。和声法や対位法などが生まれた。ついでに楽譜(五線譜)もできた
- 1900年頃のアメリカで「ブルース」や「ジャズ」が誕生。ジャンル的には兄弟関係。クラシックの理論って難しくね? もっと簡単に表そうぜということで、コードとかができた(とはいえジャズを生み出した巨匠たちはクラシック音楽理論を深く理解した天才ばかり)。
→ でもジャズの発展とともにジャズ理論自体が複雑になっちゃった - 1950年代には「ロックンロール」が誕生。ロックの影響を受けたジャズはやがて「フージョン」とかになる
- ジャズの理論って難すぎじゃね? 使えそうなやつだけ拝借しようぜ、となる。ポピュラー音楽理論が誕生。「ファンク」や「ヒップホップ」も誕生。 ←今ココ
互いに影響し合っているから正確な検証は難しい。
クラシックの理論の習得は現代でも指導者がいないと厳しい。ジャズ理論は比較的簡単だけど実践に入ると難しい。そこで漁夫の利的なノリで、ポピュラー音楽がそれらをがんがん利用してる、って感じ。
オススメのジャズ理論書
個人的に読んで良かったと思った本を5冊紹介する。どの本も前半は内容がかぶる部分はあるんだけど、それぞれに良さがあって面白くて何回も読んだ。
全体的に難しいから初心者にはオススメしないけど、ジャズ理論の世界をちょっと見てみたいって人にはオススメ。
ジャズセオリーワークショプ




難易度 | ★★★★☆ |
オススメ度 | ★★★★☆ |
良書。綺麗にまとまっていて読み進めやすい。楽典的な要素からコード進行、スケールなどジャズの基本事項を学べる。
「武蔵野音楽学院」という今では廃校したらしいスクールで使われていた教科書。
ジャズスタディ
難易度 | ★★★★☆ |
オススメ度 | ★★★☆☆ |
めっちゃ有名な本。昭和46年(1971年)が初版発行とかなり古い本だけど金管(トランペットとかトロンボーンとか)のボイシング(和音の積み方)のところが面白くて勉強になった。
基本から深いところまで幅広く学べる。楽典が理解できているのが前提。
The Jazz Piano Book
インサイドインプロヴィゼイション ペンタトニックスケール Vol.2




How to Improvise




全部難易度 | ★★★★★ |
オススメ度 | ★★★★★ |
これらもめっちゃ有名。オタク級ガチジャズ本。僕はこれでさらに友達を失くした。値段が高いのが渋い。
具体的なピアノのボイシングや練習法、歴史的な音の変化を学べる極めて優れた本たち。僕にとってジャズピアノの聖書。めちゃくちゃ面白くて良い本だけど全部読むには相当な根気が要る。ポピュラー音楽だと完全にオーバースペック。
ちなみにジャズは本を読むだけじゃダメで、練習の99%は巨匠の演奏を耳コピすること。ジャズは英語と同じような言語だから上手い人の発音(コピー)ができないと一生弾けない。
だからこの記事で紹介した音楽理論の本は、僕にとって練習の1%くらいでしかない。
まとめ:結局、続けることが大事
音楽理論は一朝一夕で身に付かないから、まずは気軽な感じで取り組んで気長にやっていこう。実践と理論を同時並行するのが効率が良いから、ピアノも少しずつ練習するのを僕は強くオススメしたい。
というわけで、以上です。読んでいただき、ありがとうございます。
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