新海誠監督の最新作、映画「すずめの戸締まり」を公開初日(2022年11月11日)に見てきた。
「言の葉の庭」「君の名は。」「天気の子」に続き、今回も3年ぶりの新海作品の公開でメチャクチャ楽しみにしていた。
映画公開の3ヶ月前には既に小説版「すずめの戸締まり」が発売されており、僕は映画が待ちきれずに小説の発売初日に買って読破してしまった。睡魔と戦いながら読んだので6時間ほど掛かってしまったけれど。
ということで今回は小説を読んだ上で見た映画「すずめの戸締まり」の感想を僕の独断と偏見で紹介する。
映画「すずめの戸締まり」のあらすじ
今回は主人公が17歳の女子高生。なので、ガールミーツボーイ作品だ。
と言っても、コテコテの学園ラブコメ要素はなく、わりと終始シリアスな感じ。
あらすじは以下のとおり。
九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、「扉を探してるんだ」という旅の青年に出会う。
彼の後を追うすずめが山中の廃墟で見つけたのは、まるで、そこだけが崩壊から取り残されたようにぽつんとたたずむ、古ぼけた扉。
なにかに引き寄せられるように、すずめは扉に手を伸ばすが…やがて、日本各地で次々に開き始める扉。
その向こう側からは災いが訪れてしまうため、開いた扉は閉めなければいけないのだという。
――星と、夕陽と、朝の空と。迷い込んだその場所には、すべての時間が溶けあったような、空があった――不思議な扉に導かれ、すずめの“戸締まりの旅”がはじまる。
Filmarks
つまり今回も、セカイ系だ。
「君の名は。」は彗星の落下、「天気の子」は異常気象と大洪水、そして今回の「すずめの戸締まり」は地震がストーリーのベースなっている。
僕は「どうせみんな助かるんでしょ~?」と分かってる風ドヤ味を一瞬出しかけたけれど、「君の名は。」「天気の子」では何があっても愛する人のために最後まで諦めないゾ展開になんだかんだで心を打たれているので、今回はそれをどう見せてくれるのか期待が高まるばかりだった。
なお、今現在(2022年11月)アマプラでは、冒頭12分が見られる。
全体的な感想:70点くらい
結論から言うと、普通に面白かった。驚くような仕掛けや突き抜け感はないけれど、綺麗にまとまっている感じ。特に泣きはしなかった。上から目線で本当に申し訳ない。
相変わらず映像はとんでもなく綺麗だったし、何より「扉の向こう側」という設定も謎めいていてワクワクした。
子猫(神様)の「ダイジン」も可愛かった。唯一の癒やされキャラだ。まどマギのキュゥべえを彷彿させるようなヤバみがあるので多分賛否はあるけれど、僕は好き。猫、可愛い。


今だからこそ、あるべき作品
3.11から11年経った今だからこそ「もう一度見つめ直して、受けて止めて、前へ歩き出そう」という力強いメッセージ性も良かったと思う。
当然、3.11をファンタジーとして描くのは勇気がいるし批判も出てくるだろうけど、一方で今現在では3.11を全く知らない若い世代も出てきている。そういう意味で、今だからこそ、あるべき作品にも感じた。
なお、3.11を題材にすることについて、新海監督は以下のように答えている。
――しかし、今回はメタファーではなく直接的に描きました。
新海 怖さはもちろんありました。覚悟がなければ触れてはいけないことなので、企画書を出すときに、「僕たちはこれをやるんだ」とプロデューサー陣と確認し合って製作に入りました。
ただ、震災をモチーフにした物語は小説でもマンガでも実写でもすでに無数に誕生していますよね。『すずめの戸締まり』もそれら震災文学の一端にある作品なので、特別なことをやったという思いはありません。
新海 誠、新作を語る。「『君の名は。』でも 描けなかったものをやるんだと、覚悟を決めて『すずめの戸締まり』を製作しました」
うん、昨今のキャンセルカルチャーをキャンセルな反論をしている。いいぞ。
ただし、想定を超えてこなかった
映画と小説をすべて見た上で、もう一度見たいか?と言われると「そこまでじゃない」というのが正直な感想だ。僕は新海作品は大好きだけれど、やはり突き抜け感がないためか今作は僕の想定を超えてこなかった。
全体的には面白かったのだけれど、あえて減点要素を言えばところどころ綺麗事が多くリアリティがないのが気になってしまった(まあファンタジー映画ではあるんだけど)。
下記で詳しく紹介するけれど、特にストーリーの詰めの甘さや妥協みたいなものを感じてしまったのだ。ここ数年で醸成されたポリコレや炎上を回避する表現・演出のせいなのか、やはり突き抜け感が出てこなかった。「え?それでいいの?」という感じ。
もちろん、ポリコレ無視して炎上しろ!と言っているわけではない。限られた制約の中で新海監督の表現の限界の限界に触れることを、僕は期待していたのだ。
その限界が今作なのだとしたら、それはそれで少し残念である。
なおこの手の批判的な意見の表明はフィリップ・マーロウの「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」なので当然僕も撃たれる覚悟が必要だ。しかし実に情けない話で平成生まれの平和ボケを享受している僕には撃たれる覚悟など当然ない。
とはいえ「めっちゃ面白かったです!」みたいな肯定100%の感想文はデジタルのゴミでしかない。Amazonも食べログも星5.0は信用できない。だから今回はエンタメのためにあえて控えめに撃ってみたい。撃たれないことは祈るしかない。
本物の感動は、二度と得られない
先に小説を読んでしまったからかもしれない。結末を知っていると映画での感動が薄れる。だから映画を先に見たほうがいい。
僕は、映画(というかあらゆる作品)は、初見時のインパクトが最も大切だと思っている。自分の想定を超えてくる瞬間こそ感動を覚えるし、その時間こそが生きる楽しみだからだ。
面白いから2回目、3回目を見ることはある。1回目で見逃した点に気づくこともあって、さらにその作品を好きになることも多々ある。
とはいえ、自分がすでに手の内を知っている状態では一発目の感動を超えることは絶対にない。記憶のない、あの頃の自分には戻れない。
余談:僕の友人たちは、85点らしい
ちなみに一緒に観に行った友達(小説も読んだ)曰く「わりと好きだけど、70点くらいかも」らしい。僕もそんな感じ。ただし僕らは狂ったように映画館に足を運ぶほどの映画・アニメ好きだ。ストックが普通の人より少しだけ多い分、採点が厳し目になってしまっているかもしれない。
ストーリーの設定や演出、音楽にもう少し捻りがあったらなぁ!みたいな、やはり「君の名は。」「天気の子」と比べてしまう僕たちがいた。鑑賞後は友人と「こんなストーリー・設定だったらもっと面白いかも!」みたいな後出しジャンケンで3時間くらい過ごした。そんな設定を反映した架空のストーリーも下のほうに書いておいた。メモ程度だけれど、どうぞツッコんでいってほしい。
ただし、別の友人たちに感想を聞くと85点くらいの評価の人が多かった。彼らは年に1、2回だけ映画館に足を運ぶような、おそらく普通の人たちだ。
彼らが口を揃えて言うのが「『君の名は。』は超えられない!」だった。他にも、印象的な音楽がなかったという感想も多かった。
感想といえば、今作は主人公が女の子なので、女友達の感想がけっこう面白かった。特に草太に対する鈴芽の「一目惚れ」については人によって意見がバラバラだった。「女なんて、あんなもんよ」とか「私は、分からん」とか。そのやり取りを見て僕はずっと笑っていた。なんだかんだ恋バナは盛り上がる。
以下、メモ書き。
良かったところ
観察眼と圧倒的な映像美


もう言うまでもないくらい、映像が美しい。言うまでもないけれど、これを言わずして新海作品は語れない。
特に、扉の向こう側の世界である「常世(とこよ)」の夜空の星々の背景が、まさに小説で読んだときのイメージとドンピシャだった。


扉を開けて、スッと常世にズームインする演出は、もはや綺麗を超えて美しい。たった数秒しかないシーンだけれど、これこそが新海アニメーションだと思えるような感動があった。
というのもあるけれど僕がもっと凄いとも思うのが、新海誠監督の観察眼だ。
何気ない日常や生活感を描くのがドチャクソ上手い。
道路の凹みや古臭い旅館の畳、生き物、匂いまでしてきそうなバー、古びた廃墟。もう実写より実写。






行ったことがないはずなのに、僕らがどこかで見たことがあるような風景を徹底的に描いてくる。それに気がつくと鳥肌が立って仕方ない。
僕らと同じ景色を見ているはずなのに……新海誠監督の目には見えている世界が違うのだろう(以前からずっと思ってはいたけれど)。


また、「天気の子」を彷彿させるような雲(特に積乱雲)の描き方、空から人が落ちていく演出には、前作の要素を引き継いでいるようにも思えた。こだわりみたいなものを垣間見た気がする。演出が憎い。


さらに、主人公たちは九州から日々、目的の扉に向けて県を跨いで最終的に東北まで移動していくわけだけれど、山も海も都市も田舎も、日本のどこかで見たことがある風景がたくさんあって、入場料のたった1500円で国内旅行した気分になれた。ラッキー。
ちなみに、ちょこちょこ出てくるGoogleマップのおかげで聖地巡礼はしやすそう。過去最高難易度だけれど。さすがに僕はしないけれど友達の地元が宮崎なので行ける機会があれば行ってみたい。
前向きな、メッセージ性


主人公・岩戸鈴芽の「夢」の描写から、映画は始まる。
夜空に星が煌く世界で草原を歩く一人の少女。見渡す限り誰もおらず、建物には草木が生い茂っている。母親を探しているけれど、見つかる気配がない。
ふと、後ろから足音が近づいてくる。その人は一体──。
そこで目が覚める。
「君の名は。」と同じく、今回も夢を見る描写から始まる。夢がある種の伏線となっている。
正直、僕はこの一連の描写を小説で読んでいたときにピンと来てしまったので、終盤で明かされたその正体に特に驚きもしなかった。文字だとじっくり考えながら読めてしまうからだ。
映画だとサッと流れてしまうので、初見だと案外その正体に気が付かなかったかもしれない。そういう意味で、先に小説を読まないほうが良かった。感動が薄れる。
とはいえ、終盤の夢の伏線回収シーンから、主人公が少女を励ますシーンには感動した。ここの少女の演技がヤバい。泣いちゃう。
「今は真っ暗闇に思えるかもしれないけれど、いつか必ず朝が来る」
と、母親が見つからず絶望している少女に優しく、そして力強く声を掛ける主人公。
「お姉ちゃん、だれ?」
「私は、すずめの、明日」
少女にとって心強い言葉だろう。手には母親が作ってくれたイスもある。ある種の救いだ。
今作「すずめの戸締まり」は、ざっくり言えば「明日を生きるのは他の誰でもない、あなた自身だ」という前向きなメッセージ性が詰まっている。
ちなみに僕はこのシーンで「明日」という言葉が聞き取れなかった。BGMかSEに声がかき消されていたように思う。
なので、「結局、私はすずめ何なの?」と、小説になんて書いてあったっけな~とひたすら記憶を辿るもついにはエンドロールまで見終わってしまった。せっかくの絶対音感が役に立たなかった瞬間である。
それにしても「正体は、実は○○でした!」みたいなトリックは「時をかける少女」「ハウルの動く城」「STEINS;GATE」などで似たような設定を観ているので、現在の僕にほとんど衝撃・感動はなかった。
でも僕が小中学生だったら確実にメチャクチャ感動しているやつだ。勇気を貰えると思う。だから、記憶を消してもう一度見たい。
コメント
コメント一覧 (3件)
代償がアルファロメオは笑えますw
架空のやつ普通におもしろくて草
音楽のことはよくわかりませんが確かに君の名はや天気の子に比べると物足りなさを感じました
すずめの涙いいですよね!