最もリアルなグランドピアノ音源は何か?

ピアノソロアルバムが作りたい。ジブリとかの。とはいえ一人でグランドピアノの録音を完結するのは大変すぎる。であればプロのレコーディングスタジオを借りて……と思ったけれど時間もお金も人も予約もいろいろ制約があって面倒すぎる。

で思った。ピアノ音源を使えば完結できるんじゃないかって。最近のピアノ音源は本物のグランドピアノと同じくらいリアルになってきているからだ。何より家から一歩も出ずに作れる。天才すぎる。

ということで今回はピアノソロに使える音源について僕の独断と偏見を書くことでピアノソロアルバムの制作に備えていく。

Keigo

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定番ピアノ音源Ivory 3は、やっぱり優秀

とりあえず定番のピアノ音源Ivory 3を聴いてみよう。2023年に新しく発売された。

SoundCloud – Ivory 3 German D

うん、とても優秀。Ivory IIから3になって音が良くなった。音色に変な癖がなくて安定している。

YouTube – Ivory 3 German D

ジャンルも選ばないしバンドにも使える。困ったときはIvoryでいい。

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優秀では困る

とはいえピアノソロにおいては優秀止まりではある。やはり本物のグランドピアノを録音した音源には敵わないのが本音。

今回の基準は本物のグランドピアノの音に近いかどうか。Ivory 3は少しだけ空気感が足りなくて嘘っぽさがある。本物のグランドピアノを録音した音を100点とするとIvory 3は85点くらい。綺麗なんだけど、それだけ。優秀程度では困る。

アプリ側のパラメータ調整と追加プラグインで何とかなるとは思うけど……5歳からピアノを弾き続けている僕の耳はそう簡単に騙せない。

というのが直感。直感は大事。

最もリアルなのは、Synchron Pianos

検証したすべての音源の結果を書き出すのも面倒なのでもう結論なんだけど、今地球上で最もピアノソロに特化したピアノ音源はSynchron Pianosシリーズ(9種類ある)だと思う。

VSL Synchron Pianos Comparison, by Stephen Limbaugh
Synchron Yamaha CFX: Chopin Etude Op 10 No 12, by Guy Bacos

リアルすぎ。Ivory 3とは空気感が全然違う。あえて点数で言うなら95点。サンプリングのピアノソロ音源としては完成形に近いと思う。

Synchronはデフォルトだと音像がクラシック寄り。だけれどマイクポジションを調整すればもっとポップス寄りにできて下記の参考曲にも全然近づける。そこがSynchronの良い点なのに公式が全然アピールしてこない。何をやっている。

ということでSynchronはマイクポジションとリバーブ、EQを駆使すればピアノソロにおいてはもう本物と区別できないレベルになっている。ただ僕は毎日Synchronの音を聞いているせいで耳が慣れてしまったので区別できてしまう。悲しい。

デメリットは、Synchronは音がリアルすぎてバンドやアンサンブルにはあまり向いていない。一応アタックをコンプで叩けば馴染むけど、それなら別の音源でいいじゃん、となる。ただ、ピアノ主体の曲ならSynchronは全然あり。

F1カーくらいピーキー

あと、使い熟すのがメチャクチャ難しい。これが最大のデメリット。

マイクポジションが多くて調整が大変だしEQや位相の知識もないと思い描く音作りができない。好みの音を見つけるのに50年くらい掛かりそう。

どんなにエンジンの性能が高くても素人がF1カーを操作できないのと同じ。ピーキー過ぎてアクセルすらまともに踏めない。

またPCのパワーがかなり必要。僕はRyzen 5 3600を使っているけれど、フルマイクで再生するだけでCPU使用率が40%とか普通にいくし音数が多いフレーズを再生すると100%まで到達する。再生した音声がぶつ切りになってしまう。まあ僕のPCがぶっ壊れている可能性があるのは否めない。

あとフルマイクを読み込むとメモリ使用量28GBに到達するのでPCメモリは32GBでは足りない。もうこの際128GBが欲しい。金が掛かる。馬かよ。

CFX Full Libraryの感想

Synchronはサンプリングされているピアノの機種ごとに今のところ9種類あるんだけれど、とりあえず僕はSynchron CFX Full Libraryを買った。日本人ならYAMAHAなのだ。さらば9万円。

早速MIDIでリアルタイム入力してみた。

宇多田ヒカル – First Love ピアノソロ

めちゃくちゃ良い……。まず鍵盤のタッチに対する感度がとても良い。他のLibraryよりもピアノの音像を前に持って来られるのも良い。

特に2:27や2:37の重厚感ある低音はこの音源でないと出ない。2:54のクレッシェンド気味のアタック感ある音色がたまらない。じゃじゃ馬な感じ。Ivory 3は優秀すぎてこれが表現できない。

もう一曲弾いてみた。

響け!ユーフォニアム – ピアノソロ

ヤバい。特に1:12~のドカンと来る強烈なインパクトの再現が素晴らしい。他の音源にできるのか、いやできない(多分)。

検証ラスト。

【検証】ピアノソロ最強音源 Synchron YAMAHA CFX はどこまで本物に近づけるか?
ヨルシカ『アポリア』ピアノ【チ。 ―地球の運動について―】

うひょ~もうこれ本物でしょ。目をつぶったら本物かプラグインか区別がつかない。むしろ綺麗すぎて逆に不自然かも、みたいなレベル。音作りやミックスはもっと追い込むことができるはず。

今のところ感じた唯一の欠点は、CFXはパンの設定(プリセットはほとんど左右に振れている)をいちいち手動で直さないといけないのでメンドクサイこと。一応、自分でプリセットを作れば解決するので問題ないけれど。

以下はメンバー限定だけど解説している動画。

ちなみにStandard版とFull Library版があって、後者はすべてのマイクが使える。個人的にはクラシック曲でなければStandardで十分かなという印象。

Synchron Fazioli F308が最強かもしれない

ピアノ音源の進化はマジで早い。たった数年でさらに上を行く音源が発売されてしまった。それが、Fazioli F308

VSL Synchron Fazioli F308

「308」はピアノ長さ308cmのこと。Fazioliのフルコンサートピアノをサンプリングしている。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 20221207_fazioli308_01-1024x576.png

音色が良いのは言うまでもないけれど驚愕なのはインストール容量。Standard版で174GB、Full版で400GB、サンプル数は363,132というバケモノ仕様になっている。うひょ~サンプリング音源はこうでなくっちゃ。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 20221207_fazioli308_02-1024x576.png

操作画面はCFXなどとほぼ変わらない。ちなみに収録マイク数は11本。

なお当然だけれど、相当のマシンスペックが要求される。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 20221207_fazioli308.jpg
Fazioli F308 – System Requirements

推奨スペックにちゃっかりXeon(Intel CPUの最上位)が入ってるのが笑える。こうでなくっちゃ震。

Synchron Steinway D-274はどうなのか?

ピアニストの憧れSteinway D-274。世界最高峰のグランドピアノだ。その音を収録したのがSynchron CONCERT D-274

VSL Synchron Concert D-274: Without Words, by Philip Johnston

音色自体はCFXより好きかもしれない。ただどのように設定しても音像が遠いから今回の用途だと少し使いにくい気がしている。ただしパンの設定は楽。

ということで、今から買うならF308 > CFX > D-274かなと。少し小さい部屋でポップスならF308、クラシックならCFX、しっとりならD-274かな。

無料なら、Hammersmith Free

無料のリアル系ピアノ音源でならHammersmith Free一択。容量は4.8GB、ベロシティレイヤーは21。

Soniccouture: Hammersmith Pro

ただし音源を鳴らすにはKontakt Playerが必要。

引用:HAMMERSMITH FREE

どのサンプリング音源もだいたい上記のように録音されている。金も人も時間も掛かって大変そう。

なお有料版のHammersmith Proもある。こちらはサンプル数が多くてマイクも6本になる。容量52GB。

サンプリング音源はストレージ容量を圧迫しやがるから追加SSDが必須。外付けならSanDiskのこれがおすすめ。

SanDisk
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アンサンブルなら、Addictive Keys

ピアノソロ向けではないけれど、ついでなので補足。

バンドなどのアンサンブルサウンドに向いている比較的安いピアノ音源ならAddictive Keysがコスパ良くておすすめ。

Addictive Keys – Studio Grand Preset Walkthrough

クラシックの繊細な表現などには向かないけれど、ロックやポップスならむしろこれくらいハッキリしたサウンドのほうが埋もれずに済む。

Addictive Keysは4種類あるけれどSteinway Model Dの音を収録したStudio Grandが一番おすすめ。

XLN Audio
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追記:まだまだサンプリング音源のほうがリアル

本物のグランドピアノと高品質なピアノ音源で演奏された同じ曲を聴き分けられるだろうか?僕はできる自信がある。誰よりもピアノソロ曲を聴いているから。

とはいえ、上記でいろいろ書いたけれど結局のところどのピアノ音源も本物のピアノの音質を完全に再現するには至っていない。その主な理由は実際のピアノが生み出す複雑な倍音構造にある。この倍音は非線形的かつランダムな特性を持っているからデジタルでの再現が極めて困難なんだ。

実際のピアノの音色は演奏環境によって絶えず変化する。温度、湿度、室内の音響特性、楽器自体の経年変化など、様々な要因が音に影響を与える。だから同じピアノでも日々微妙に異なる音色になる。人間の耳はそんな微細な音の揺らぎを感知する能力を持っている。フリーレンの魔力探知みたいなもん。魔力探知、苦手?

山田鐘人, アベツカサ
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一方、デジタルのサンプリング音源は、MIDI情報(音の長さや強さ)やマイク設定などのパラメータを固定すれば常に同一の音を再現できる。メリットである反面この一貫性が逆に自然さを損なう要因になる。本物のピアノの持つ有機的な音の変化を完全に模倣することはやっぱりまだ難しい。

という理由で長年音楽をやってきた人の耳にはデジタル音源と本物のピアノの微妙な違いを感じ取ることができる。とはいえ技術の進歩は日々続いているから将来的にはこの差がもっと縮まって僕もすぐお手上げになると思う。

たとえば最新のモデリング音源の「Pianoteq 8」はランダムな倍音の生成が可能になっている。

Modartt | Pianoteq 8 | Demo & Review

ただしまだ音色の密度が低かったり不自然なアタックが気になる。まだまだリアルとは言えない。でも将来的にPianoteq9や10あたりではサンプリング音源を上回る音色の良さが出せるかもしれない。

最近発売されたのIvory 3 German DのRGBエンジンも改良されていて強弱のダイナミクスがより連続(アナログ)するようになっている。Synchronだと生々しすぎる、という場合はIvory 3を選択してもいいかな。

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僕としては今現在(2024年)は、まだサンプリング音源のほうが性能は圧倒的に上だと思っている。

だからみんなSynchronを買おう。400GB。うひょー。

余談:プロの参考曲を探す

参考曲をいくつか聴いて目指すべき音のイメージを膨らませたい。僕はゲーム・映画音楽が好きだからその方面のピアノソロ曲を探してみる。

探す基準は市販で売られている音源とライブ音源。ポイントはプロの手が入っていること。でないとクオリティを担保できないから。

で、とりあえずYouTubeで見つけたのがこの辺り。

Final Fantasy XIII Piano Collections – Lightning’s Theme
Piano Collections NieR:Automata – 曖昧ナ希望
Animation “Violet Evergarden” Piano Arrange Album: Though Seasons Change-Violet Evergarden Piano Memories- – Theme of Violet Evergarden (Though Seasons Change Ver.)
Sławek Jaskułke Solo – Kind Me (from Moments)
劇場アニメーション映画 言の葉の庭 Original Soundtracks
久石譲 – HANA-BI
澤野弘之 – Piano Medley-SUMI
辻井伸行 – Kapustin: 8 Concert Etudes Op.40 No.1 “Prelude”

この辺りの音質と音色を基準に作れば良さそう。特にライブ音源は打ち込みにはない空気感があるからそれも参考にできれば、という感じ。どれも好きな曲。

あとは打ち込みでどこまで迫れるか、という問題だけ。やっぱりSynchronだとマイクポジションも多いから空気感・奥行き感が段違いで、一番上記に迫りやすい。

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