一番好きなジブリ作品は「もののけ姫」と即答するくらいには好きなんだけど特にクライマックスに流れる『アシタカとサン』の破壊力はヤバい。
最初に見たのは5歳くらいだったからストーリーの内容は全く理解していなかったけれど、この曲が流れたときの衝撃とカタルシスは今でも忘れられない。ヤックルは買えませんと親に何度言われただろう。
ということで今回は『アシタカとサン』のコード進行と魅力を僕の独断と偏見で紹介する。
楽曲概要
本家はこれ。英語タイトルだと『Ashitaka and San』。
音楽の担当は久石譲。名曲しか生み出さない日本の宝である。
上記のサビ(01:23~)なんて死ぬほど美しい。生きるって素晴らしい。ヤックルも生きてて良かった。
『アシタカとサン』のコード進行
コード進行は下記。あくまで僕の判断なので参考までに。
Intro.
| Db | Db6(9) | Db6(9) | Db6(9) |
A
| Db6 | Dbmaj7 | Ebm/Db | Db |
| Bbm7 | Gb Db/F | Eb9 Ebm9 | Ebm7 Ab7 |
| Db6 | Dbmaj7 | Ebm/Db | Db |
| Bbm7 | Gb Db/F | Eb9 Ebm7/Ab | Db9 |
B
| Gb | Ab | Gb | Fm7 |
| Gb | Ab | Bbm7 | Cbmaj7 | Ab Gbmaj7/Ab Ebm7/Ab Ab9 |
C(サビ)
| Db | F7 Gb | Ebm7 Gbm7 | Ab |
| Db | F7 Bbm | Fm/Ab Gb | Gb Db/F |
| Ebm7 Gbmaj7/Ab | Ab7 Adim | Gb/Bb | Db |
D
| Gb Ab | F/A Bbm7 | Cbmaj7 | Fsus4 F |
| Gb Ab | F/A Bbm9 | Cbmaj7 | Fsus4 F |
| Db9 | Db9 |
Ending
| Fsus/Gb | F7sus4 | Gbmaj7(9) | Ab6 |
| Db9 | Db9 | Db9 |
原曲はオーケストラなので多少こじつけだけど、これがコード表記の限界。
小学生のときにピアノで弾こうと楽譜を見たらフラットが5つも出てきてすぐに挫折した覚えがある。その後Db Majorキーは人間の手の構造上、意外と弾きやすいことが分かった。
『アシタカとサン』の楽曲の解説
『アシタカとサン』、ジブリの中でも屈指の名曲だと思う。「もののけ姫」のテーマ「生きろ」を表した楽曲に相応しすぎ。
意外とポップスな構成
曲の構成がわりと現代のポップスと似ている。
イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ(Cメロ)、Dメロ、エンディングという日本では馴染みが深い構成になっている。
動画の尺に合わせて作っている映画音楽だから構成ありきではないと思うけれど、意外な発見で面白い。
サビのコード進行が美しい
サビ(1:23~)のコード進行が美しい。
Key of C(ハ長調)でも表してみる。
わかりやすくなった。コード進行はとてもシンプルそうに見える。
さらにこれをディグリーネームで表してみる。
まず2小節目のノンダイアトニックコード「III7」が強烈な印象。通常はVIに対するドミナントコードだけれど、次のIVに対する偽終止として使っている。偽終止は浮遊感を呼び起こす弱い終止なので意外な印象を与える。
さらに3小節目の「IVm7」もマイナーキーのコードを使っている。いわゆる同主調からの借用和音。b6thの音を含むコードで機能はサブドミナントマイナー。哀愁漂うイメージ。大好き。
サビのメロディーではA音(ラ)とB音(シ)の2音のみがノンダイアトニックで、これも浮遊感がある。
次に6小節目の「III7」以降の進行。コードのルート(ベース)の動きに注目してみる。
Key of Db MajorでF7の後に、
と綺麗に下降の順次進行してる。ベースが滑らかに進行すると美しいメロディが際立つ。ちなみに今度のF7はBbmに対するドミナントコードになっている。
滑らかにコードを繋ぐという意味では「Fm/Ab」や「Db/F」などの第一転回型を上手く使っている。ここはクラシック和声。
後半9小節目以降は、II-V進行のVをsus4に、さらにディミニッシュコードでスパイスを加えてIVからIへの変終止でサブドミナントからトニックへ至る。
ちなみにIVからIへの進行は「アーメン終止(賛美歌の最後の「アーメン」がこの和音で歌われることが多いことから)」とも言われていて、VからIへの全終止に比べると柔らかい印象を与える。ショパンやドビュッシーがよく使っているやつ。
これでけ見てもサビのコード進行がいかに洗練されているかが分かる。めちゃくちゃ計算されている。7回くらい脱帽。
オーケストラとピアノ
実は本格的なオーケストラにおいてピアノは編入楽器に分類される。極端な話ピアノは補欠扱いなんだ。巷ではピアノは楽器の王様と言われているくせに何をやっているんだ。偉すぎてお控えください状態である。
理由としてはピアノは他の管弦打楽器に比べて強弱や奏法で音色の変化に乏しいからだ。オーケストラ曲でピアノをメインにするには管弦打楽器が脇役に徹して音量を抑える工夫が必要になる。家来よ、目立たず働け。王様ムーブである。
原曲では以下の楽器編成になっている。
- 木管楽器(ピッコロ、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット)
- 金管楽器(ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバ)
- 打楽器(ティンパニ、シンバル、グロッケンシュピール)
- 弦楽器(バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)
通常のオーケストラは上記のように大きく4つの楽器に分類される。
『アシタカとサン』の各セクションごとの楽器群の役割はだいたい以下のとおり。
- イントロ
主旋律(メロディ):ピアノ
和音(裏方的):クラリネット、弦(原曲ではパッド) - Aメロ
主旋律:ピアノ
和音:弦 - Bメロ
主旋律:木管 → ピアノ
和音:弦 - サビ
主旋律:ピアノ + チェロ
対旋律:木管
和音:金管、弦 - Dメロ
主旋律:木管 → 弦
和音:木管 → 金管、弦 - エンディング
主旋律:ピアノ、オーボエ
和音:金管、木管
オーケストラでは弦楽器はまるまる一曲ずっと鳴っていても基本的に問題ない。強弱の幅が広くて聴き疲れしにくいからだ。実際にこの楽曲ではDメロ以外は何かしらの弦楽器が演奏されてる。
木管と金管は鳴らしっぱなしというより、和音を構成したり主旋律や対旋律を演奏するなどところどころ効果的に使われる。
Dメロの前半は木管、後半は金管が目立ってる。
ピアノソロ
ピアノソロにアレンジした。
難易度は中級くらい。フラット5つなので最初は譜読みが少し大変かもしれない。
アコースティックピアノで演奏する場合は特にテンポと強弱に注意したい。全体的にルバート(柔軟にテンポを変える)で良い。とはいえ自分の中でテンポ感を意識しないと雰囲気が壊れがち。テンポが早くならないように注意したい。
※楽譜販売サイト「Piascore」に移動します
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